ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 30
今年も新人隊の訓練が始まった。
去年は突然の話で、ロボットに関して不安しか無かったが、すぐに教官職で手一杯になってそれどころじゃなくなった。
しかし今年は、ロボットの心配がほとんどないこと。密やかに、自分が『鬼軍曹』と呼ばれていたこと、そのあだ名が今年も使われていることを知って、嶋本は少しだけ教官職に自信を持てていた。
もしかしたら、その自信が、決断を遅らせることになったのかもしれない。
嶋本が星野に付き添った病院から戻ると、新人隊の訓練を終えた真田がまだ基地に残っていた。
嶋本は、誰にともなく言った。
「ただいま帰りました。星野は入院の必要も無く、明日以降の訓練にも参加できます」
「そうか、それは良かった」
答えたのは黒岩だった。
嶋本は、真田のもとへ行った。
「新人隊の訓練、ありがとうございました」
「それは構わないが……、嶋本は、明日以降も星野を訓練に参加させるつもりなのか?」
「は……?」
嶋本には、真田が何を言っているのか分からなかった。
いや、わかりたくなかった。
「星野は、緊張するとミスをする。訓練でさえミスをするのに、現場でミスをしないはずがない」
最後まで言わせてたまるか。嶋本は少々ムキになった。
「何言ってるんですか。現場でミスしない為の訓練でしょう。今ミスせずに、いつミスするんです? 訓練でミスをせず、最低限しか学習できず、そんな状態で現場に出す方が俺には恐ろしい」
「現場では訓練以上の緊張を強いられる。現場でミスしないとは言い切れない」
「なら俺が鍛えてみせます。今回のミスと吊り上げ救助訓練の時のミスを自信に変えて見せます。あらゆるミスを次に繋げて見せます」
「精神を鍛えるか」
「はい」
「精神は、どこまで鍛えられる?」
真田のこの問いは、今の嶋本には挑発にしか聞こえなかった。
精神なんてもの、ロボットにはわからない。だから、鍛えられるものならば、期待するところまで鍛えられるならば、それで構わない。隠れたこの意味に、嶋本は気付けなかった。
答えに詰まった嶋本を見て、ロボットは、期待するところまで精神を鍛える事は不可能だと捕らえた。
「星野は除隊だ」
その言葉に、嶋本は次こそ食らいついた。
「二回しか訓練見てへん人に、何がわかるんですか!」
「二回とも重大なミスを犯した」
「それしか見てへんやないですか、言うとるんです!」
「では、嶋本は星野の何を見てきた。星野の何がお前をそこまで頑なにさせている」
「訓練時の星野の全てを見てきました。星野の訓練成績とそこから見受けられる可能性を、俺は無視なんてできません」
真田の意思を変えるには──
プログラム実行結果を変えるには、新たなデータを与えるしかない。
実行結果を180度ひっくり返す。そのためには、多くのデータが必要だ。嶋本は、訓練時のデータだけでなく、『おず』での実績まで引っ張り出してきた。
真田はすばやく目を通すと、ふむ、と一つ息をついた。
「嶋本は、これらの事が、二度の重大なミスを補うと言うのか。今後要救助者や他の隊員を危険に巻き込まない根拠になると言うのか。星野が必ず現場から生きて帰ってくる根拠になるのか」
結果は、ひっくり返らなかった。
結果をひっくり返せなかった。データが足りない。何か無いか。
必死に考えて、今の会話を反芻して。
嶋本は、ふいに、気付いた。
データは足りない、精神なんてどこまできたえられるかわからない。何より、一番初めに、真田に最後まで言わせなかった。
それはつまり、自分の中でも同じ答えが出ていて、ただ、それを認めたくないだけだ。
認めたくないのは、努力している星野を知っているから。努力している星野に情が移っているから。
星野だけじゃない。新人皆、成長は遅いし未熟だし憎ったらしいやつばかりだが、なんだかんだで、かわいい。成長は遅いが、それでもここまで自分の手で育ててきた。ここまで育ってくれた。かわいくないはずがない。
何が何でも一人立ちさせてみせる。
その思いが、間違った方向に働いていた。
いつか、死なせるところやった……
「除隊の方向で、黒岩さんと話をしてきます」
嶋本はそれだけを言うと、深く一礼してその場を後にした。
