ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 3

 

 嶋本に遅れること数分。佐々木が部屋へ戻ると、休憩時間に入っていた。高嶺は茶菓子を用意しており、他の隊員たちは談笑していた。しかし、嶋本と真田の姿が見当たらない。きょろきょろしていると、高嶺がお茶を持ってきた。
「どうぞ」
「どうも」
「シマと隊長なら外ですよ。壁際に座り込んで話してますから、外に行くか窓際まで行くかしないと姿は見えません」
「そうっすか……」
「気になるなら行ってみたらどうです。あの二人と話すのは面白いですよ」
「面白い?」
「ええ。間近で漫才が行われてるみたいで」
「漫才?」
「隊長がね、どうしても変な言動取ってしまうんですよ。シマが突っ込まずいられると思う?」
 佐々木はその問いには答えなかった。お茶をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ロボットと、そんな話する必要ってあるんすかね?」
「そんな話?」
「現場でバディを組まされたなら、わかりますよ。でも、相手はロボットなのに、何を話す必要があるんですか」
 佐々木は、ロボットと話すという行為をまるで軽蔑しているみたいに、苦々しく言った。高嶺はそこに佐々木なりのプライドを見出して、慎重に述べた。
「現場でいきなり使ったことのない機材を使えと言われても、無理な話でしょう? そういうことですよ」
「機材……」
「そう。隊長も、言ってしまえば機材。普段から訓練しておかないと」
「……そんなもんなんですか」
「そんなものです」
 言って高嶺は、窓の外を見た。二人は座り込んでいるから姿が見えないが、二人の様子を想像することは容易かった。だって二人は……。そう、何の違和感もなく『二人』と言ってしまう程に、嶋本とロボットは普通に意思疎通ができ、笑い合うことができる。嶋本の隣にいる時のロボットは一個人にしか見えない。きっとそう見えるだけだが、それ程に一人と一体は、息が合っている。
「でも、そう言えば…」
 ロボットのデータが初期化されてからというものの、嶋本は真田の自我の話を全くしなくなった。この様子だと、佐々木にも話していないに違いない。
「いえ、何でもないです」
 しかし高嶺は即座に、喉元まで上がってきた言葉を飲み込んだ。ただでさえ戸惑っている佐々木に、話すようなことではない。それに、ロボットをよくわかっている嶋本がそうしているのだから、話すべきでことでもないのだろう。高嶺は柔和な笑顔を見せ話を終わらせた。
 その時嶋本は、さっそく真田に細かく説明をしていた。先ほどの説明では「他の者でもわかることであれば、自分には聞くな」と、そう受け取られかねない。嶋本はまず、地面に指で小さな長方形を書いた。コンクリートなので実際に書くことはできないが、真田はまるで長方形が見えているかのように地面を見て話を聞く。
「疑問が浮かびますー」
 そう言って嶋本は、長方形から下に線を伸ばした。嶋本は真田の相槌を聞くと、次は横長のひし形を書いた。
「もし、それが誰でもわかるようなことであればー」
 そう言って、ひし形の下に再び線を伸ばし、また長方形を書いた。
「一番近くにいる者に確認を取ってください」
「ああ」
「で、わかる人が限られてくることやったらー」
 そう言って次は、ひし形の横に線を伸ばし、またひし形を書き、下に線を伸ばし長方形を書いた。
「そのわかる人に聞いてください」
「ああ」
「でももしかしたら、その人がおらんかもしれません。そん時はー」
 言いながら、二つ目のひし形の横に線を伸ばし長方形の上の角二つを削ったような形を書いた。そしてれの下に線を伸ばし、長方形を書く。
「近場にいるわかりそうな人に聞いてみてください」
「ああ」
「これ、近場にわかりそうな人副数人いるんやったら適当に何人かに聞いてください」
「ああ」
 そして次は、長方形の下二つの角を削ったような形を書く。
「でもこれ、わかりそうな人五人いるからってわかるまで聞き続けることないです。二人くらいに聞いてわかれへんかったら、一番わかりそうな人来るまで保留にしてくれてええです。聞く時間がもったいないですから」
「ああ」
「ここまでは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
 確認を取ると、嶋本は最初の二つの長方形の間にひし形を書いた。
「急ぎじゃなかったら別にこれでええんですけどね、書類の締め切りが迫っとったり、海難の現場やったりしたら、そんなのんきなことできません。のでー」
 言って、ひし形の横に線を伸ばす。
「その時は、自隊の副隊長に聞いてください。今やったら俺ですね」
「なぜ自隊副隊長なんだ?」
「必ず傍におるからです。もし海難現場で離れとるとしても、連絡がとれない状態は絶対になりません」
「なるほど」
 嶋本はその返事を聞くと、始まりと終わりに丸を書いて線を伸ばし、フローチャート図を完成させた。フローチャート図とは、アルゴリズムを図化したもので、これができてしまえばプログラムは容易に組める。嶋本は真田に何かを教えるとき、新たなプログラムが発生することを意識するようにしていた。いくら人工知能があるとはいえ、プログラムでは『理解する』ことができないため、全てを教え、正しい命令の生成へと導かなければならないのだ。
「これに関して、他に疑問が生じたら俺に聞いてください」
 嶋本は顔を上げ、真田と目が合ったのを確認するとそう言った。しかし真田は「ん?」と疑問を露にした。
「フローはたった今完成したはずだが」
 真田は言外に、フローチャートにひし形が一つ足りないと言った。しかしその表情は楽しそうだ。嶋本もつられて軽口をたたく。
「うっわ。ここで揚げ足取りますー?」
「最後のIF文はどこに入れれば良いんだ?」
「知りませんよ。そもそもこのフローだって適当に書いただけで綺麗じゃないんですから、自分で解析してください?」
「綺麗じゃないのか?」
「綺麗じゃないですよ。組んでみたらわかります。インデントが大変なことになってるはずや。……まあ、それは人間が見るときに見にくいだけで、隊長には関係ないか」
「酷いな。人間には関係あるのに、俺には関係ないのか」
「だって隊長にしてみれば、やることは同じですやん。関係ありませ〜ん」
「……俺のとる行動がかわらないなら、嶋本にも関係ないんじゃないか?」
「うっわ、今日はやたらつっかかってきますねー。誰からそんなこと教わったんです?」
「教わったんじゃない。嶋本から学んだんだ」
「まじっすか!? うっわ、これ以上余計なこと学ばんといてくださいよ〜?」
「余計なことなのか?」
「ええ、余計なことです」
「なぜ?」
「なぜ〜?? 言わせるんすか? 俺に? この悲しい現実を? 言わせるんすか??」
「ああ」
「しゃあないっすねー。一回しか言いませんからよう聞いてください?」
「ああ」
「ロボは、人間様の言うことを、素直に聞いてりゃ良いんです。OK?」
「あはは、OKOK」
 途中からこの様子を見ていた佐々木は、無性にいらいらしたが、それがなぜかはわからなかった。

 

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