ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 4
『海難通報、海難通報』
その放送に皆が集中する。状況を把握すると、真田は即座に指示を出した。
「嶋本、佐々木、行くぞ」
しかし嶋本が異を唱えた。
「待ってください。佐々木は連れていけません」
人間の命令に従うこと。それがロボットの使命。まるでそう言わんばかりに、真田はその意見を受け入れた。
「では、長倉。行こう」
「はい!」
そして二人は先にヘリへ向かった。嶋本はそれに続きざま、佐々木を呼んだ。
「なんで下ろされたか、考えんでも分かってるな?」
そして視線を高嶺に向ける。
「佐々木頼むわ」
そして嶋本は駆けていった。
ヘリが出ても、基地はしばらく慌ただしかった。落ち着いたのは、20分後くらいだろうか。高嶺はそれを見計らって、佐々木に声をかけた。
「いつまでふくれっ面でいるつもり?」
「いや……」
佐々木は目を会わせない。しかし高嶺は構わずに続けた。
「じゃあ、何にふてくされてるの? 連れていって貰えなかった理由は、自分でわかってるんでしょう?」
「……」
「困りましたね」
そう言って一つため息を付けば、佐々木は重たい口を開いた。
「……ロボット、ですね。隊長。」
しかしそれだけでは、高嶺には佐々木の言わんとするところが全くわからなかった。
ただ一つわかっていることは、佐々木は今なお、ロボットに戸惑っていると言う事。
「そうですね。隊長はロボットです」
「高嶺さんは、何とも思わないんすか? さっきだって隊長は、嶋本さんに言われてすぐ、命令を変えたじゃないっすか」
つまりどういうことだ。高嶺は考える。
『ロボットですね』と言った上での、今の言葉。隊長は「人間の命令を聞くだけのロボット」でしかない、と思っているということだろうか。そんなロボットを、信頼できるはずがない、と。
「人間に意見されてすぐ命令を変えるようなロボットが、信頼できない? そんなロボットが隊長だなんて、理解できない?」
聞けば、佐々木はゆっくりとうなずいた。
そして思い出す。このロボットが、隊長に昇格したときのことを。まだたったの四年前の話だ。ロボットが体長に昇格するにあたり、当時の特殊救難隊員三五人全員が異を唱えた。そして佐々木と同じ理由で最も反対したのが、嶋本だった。若さも手伝って、嶋本は基地長に食らいついた。
高嶺は当時の嶋本の様子に、こみ上げる笑いを耐えることができなかった。クスリと噴き出せば、佐々木は怪訝そうな顔をした。
「ああ、ごめんね。ちょっと、昔のことを思い出してね」
高嶺は至極楽しそうに言った。佐々木は余計怪訝そうな顔になったが、高嶺は気にせずに聞いた。
「とりあえず君は今、隊長がシマに意見されて理由も聞かずに命令を変更したのが気に食わないんだよね?」
まるで、幼い子が我がままを言っているかのような言い方をされて佐々木は頭に来たが、間違いではないので否定はしなかった。
高嶺はそれを肯定と取って、一つ、ヒントを出した。
「海難救助とは、一刻を争うものです」
しかし佐々木は何が言いたいのかさっぱりわからなかった。そんなわかりきっていることを言われても、何のヒントにもならない。
無言でいる佐々木に、高嶺はもう一つ、ヒントを出した。
「あのロボット、いっちょ前に疑問ってものを投げかけられるんだよね」
「疑問?」
「そう、疑問」
そして佐々木はハッと気付いた。
「……ただ人間の命令に従っただけじゃないってことですか?」
「その通り。きっとヘリの中で、なんで佐々木君を外したか、ちゃんと聞いてるはずだよ。その場で理由を聞かなかったのは、一刻も早く救助に向かうためだ」
「…………」
「とりあえずはその膨れっ面、なおしてくれるね?」
「あ……。はい」
高嶺は素直に返事をした佐々木に満足そうにうなずいた。でもすぐに、穏やかだけど威圧感たっぷりの表情をした。それから、ともう一つ付け加える。
「それから。隊長が疑問を投げかけられること、普通に話をしたことがあれば気付けていた事だよ。一ヶ月以上も経って、隊長のことを知らなさ過ぎる。少しは隊長と話くらいしなさい」
「…………」
「返事!」
「……はい」
その後佐々木は少しずつ、ロボットと話をするようになっていった。とは言っても、これまでの必要最小限の報告・連絡・相談に加え、確認が増えただけだ。それでも佐々木はその内容の正確さと、訓練での適切な指示に、ほんの少しずつではあるが、真田に信頼を寄せるようになっていった。
その様子に嶋本は、満足そうに「いい変化や」ともらした。高嶺も「そうですね」と同意した。そして、それに対する反応は、思わぬところからもあった。
佐々木との話を終えたロボットが、どうした、と話しかけてきたのだ。本人に言うまでもないことなので、嶋本は「いえ、何も」と返事をした。しかしロボットは引き下がらなかった。
「ずっと見ていただろう?」
その言葉に嶋本は、あ、と思った。以前にもこんな会話をした。真田がデータを初期化する前だ。厳密には、嶋本が真田の自我を意識して接するようになってすぐだ。
──思い出せ。俺はあの時、何て言うた? ……せや、確か、見とったことを誤魔化そうとしたんや。
「……ああ、目線は相手に合わせても、視界は三六〇度でしたっけ。うかつにボケッとできませんね」
「ボケッとしていたのか」
「ええ、まぁ」
「こっちを見ていて笑顔になったから、どうかしたのかと思った」
「笑顔? なってました?」
「なっていた」
「うっわ、気ぃ付けな」
「なぜだ? 嶋本はもう少し気を抜いても良いと思う」
「駄目でしょ、仕事中やのに。ほら、戻ってください!」
言って嶋本は、真田のデスクを指した。嶋本は真田が席に着くまで見届けると、はぁ、と一つ肩で息を付いた。そこへ高嶺の楽しそうな声が聞こえてきた。
「デジャブ」
「ん?」
見上げてきた嶋本の眉間へ、高嶺は人差し指を伸ばした。
「皺が、固定してしまう。せっかく良い表情ができるのに、眉間の皺が固定してしまってはもったいない」
「な……!!」
嶋本はボンと耳まで赤くなった。以前、同じ会話の末に真田にやられたことだった。嶋本は慌ててその手を払う。
「見とったんか! てか、なんで覚とん。恥っず」
「面白かったから。それに、このやり取りを見て初めて、本当に隊長に自我があるのかもって思ったからね」
「……今も、あると思うか?」
「それなりにあると思うよ」
「……」
「少なくとも、シマは今、隊長を人間扱いしてないよね。隊長はそれなりの自我を形成していってる」
「そうか……」
すると嶋本は何やら考え込んでしまったので、高嶺は自分のデスクへと戻った。
