ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 6
嶋本は、真田隊初代副隊長・一ノ宮と二代目副隊長・押尾に話を聞いた。当時の真田の様子と扱い方、隊の雰囲気はどうだったか。一年間で、真田に何か変化は見られたか。
しかし二人共、特に何も気にしていなかったらしい。真田の様子がおかしくても、隊の雰囲気が良くなくても、それは真田がロボットだから仕方のないことだと放っておいたというのだ。そのうち皆その状況に慣れるだろうから、と。そして実際、皆すぐに慣れたらしい。真田の変化も、気にしていなかったせいか特に気付かなかったらしい。
では、何か印象に残っていることは無いかと聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「一度飲みに誘ってみたら、すっごい困った顔されちゃってねぇ。冗談だっつったら、なんだ冗談かって、笑われた。まさかロボットがそれで笑うとは思わねぇだろ?」と、一ノ宮。
「確か、真田隊初日の帰り際だったなあ。飲みに誘われたんだ。だから、そうだなあ、美味い焼肉三馬力! って答えたら、真顔で無言になりやがったんだ。自分から冗談ふっかけといて、失礼な話だと思わない?」と、押尾。
これは嶋本にも覚えがあった。「飲み食いできるんですか!?」と真に受けたら、「冗談だ」と笑われた。真田隊初日の帰り際だった。
この話から推測できることは、ロボットからはもともと分かりやすい表情の変化が見られたということ。明確な命令がなくとも、自分で判断してインプットを行っていること。そして、機会を見つけてそれを実行しているということ。
しかしそれは、嶋本の知りたいことではなかった。
はあ、と思わず付いてしまったため息を、黒岩は聞き逃さなかった。
「どうした! ため息なんか付いて!!」
「どうもしませんよ。てか、なんで黒岩さんがおるんです」
「なんだよ、俺がいちゃいけねぇってのか!」
「少なくとも、俺の予定とは違いますねぇ」
そんなそっけない嶋本の言葉は気にせずに、黒岩は傍の椅子を持ってきて腰掛けた。
「押尾と一ノ宮からは話聞いたんだろう?」
驚いた。
嶋本は、押尾とも一ノ宮ともさしで話をしたのだ。大それたことは全く言わずに、それとなく、世間話を装って聞いたつもりだったのに。それが、黒岩に伝わっているなんて。
「ええ〜? ちょっと話しただけですよ」
「……じゃあ、なんでごまかす?」
黒岩は真面目そのものだった。
「黒岩さんが気にするようなことじゃないからです」
「だが、何かあったから二人に話を聞いたんだろう?」
「……何も無いですよ。ほんまに、世間話の一環です」
声に出してみて、嶋本は確信した。
うん。何も無い。
だって自分は、真田が何か感情を覚えるようなことがないよう注意してきた。
高嶺は、真田がそれなりの自我を形成していると言っていたが、本当に真田が自我を形成しているなら、とっくに自分のことを忘れられてしまっているはずだからだ。だって真田は、自分で「感情を忘れきるためには、嶋本のことも忘れなければならない」と判断して、感情や自我を消去する命令を生成している。しかし今、自分のことを忘れられていない。つまり、その命令は実行されていないということ。
だから、真田は自我を形成していない。隊には、何の問題も起きていない。
『ちょっと話した』その内容を話せば、もしかしたら黒岩は納得してくれるかもしれない。
「黒岩さん、真田さんから飲みに誘われたことあるでしょう?」
「ん? あ〜、あったな。確か。真田隊初日だ」
「俺もです。どうもね、真田さん、一ノ宮さんから冗談で誘われたのをきっちりインプットしたみたいでね。冗談、実行したみたいですわ」
「へえ」
「そんな話をね、しただけです」
すると黒岩は以外にも、話にのってきた。
「そうだなぁ、飲みに誘われた時は驚いたが、そんなにとっつきにくい奴じゃねぇのかなって思ったもんだ」
「俺なんか、ほんまは人間ちゃうか思いましたよ」
言えば、黒岩はガハハと笑った。
「そんなにか」
「ええ」
「あー、でもまあ、意外に人間っぽいなと思ったことはあったぜ」
「へえ? 何があったんですか?」
しかし黒岩は話しあぐねた。
「んー、言っちゃって良いのかねぇ」
「何ですか、気になるじゃないですか!」
「だがお前、怒るだろう?」
「はあ?」
何がなんだかわからない。嶋本は、とりあえずその話に何かしらの形で自分が絡んでいるのだろうと考えた。それは余計気になる。
「もう、めっちゃ気になりますやん!」
すると、黒岩は「怒るなよ?」と釘を刺してから話し始めた。
「俺が真田の下で働くようになってすぐの頃だったか……。お前と話した後に、真田に聞かれたんだ。今の人物は? ってな。だから、小っさくてびっくりしただろう? って聞いたら、そういうわけでは、と否定された」
「……」
「猫みたいだと思ったんだと、お前のこと」
「へぇ……」
「気になってたみたいだぜ、お前のこと。だから、お前と真田を会わせねぇように頑張ったんだがなぁ……」
「ん? 俺、副隊長になるまで、真田さんと会ったことないですよ」
「そりゃそうだ。俺が遠ざけてたんだから。それなのに、真田はお前を副隊長に指名して譲らなかった」
「……あー、それで俺、副隊長初年度から真田隊なんですね」
「ほんっと、迷惑な話だぜ。皆ロボの判断だから何かあるんだろうって信じて疑わないから嶋本に決定するし。かと言って本来隊長になるべき人物が割り当てられてるポジションに、特救隊三年目のお前じゃ不安だろう? じゃあ、他の隊員で補おうってんで、皆三隊を優先して新隊編成したんだ」
「……それはなんと言うか、ありがとうございます」
「ったく。嶋本だけならまだしも、高嶺も長倉も取られたんだぜ、勘弁してくれよな」
「それはなんというか、すいません」
「ああ。ったく。……いや、話がずれたな。それで、ロボでも何か一つを気にしたりすることあるんだなぁと思ったんだ」
珍しいだろう? とでも言いたげな黒岩に、嶋本はけろりと答えた。「そりゃ、ありますよ」
ロボットが何か一つを気にすることは、なんら不思議ではないことだ。
「真田さん、めっちゃ性能が良いんですから」
「だが、興味を持ったんだぜ? まるで人間みたいに」
「人間みたいに興味を持ったかのように、見えるだけです。めっちゃ性能が良いから」
「ん?? つまり、どういうことだ?」
「俺を見て、真田さんの中でなんらかの異常が発生したんでしょうよ。その異常を突き止め、改善するために、俺の情報を得ようとするプログラムが走ったんです。……多分。それが黒岩さんには、俺に興味を持ったように映ったんでしょう」
すると黒岩は、ふぅん、とつまらなさそうな反応を示した。
「ま、何も無えなら良いんだ!」
言いながら勢いよく立ち上がり、嶋本の背中をバシバシと叩くと、椅子を戻して基地から出て行った。
