なリス 15

 

 脱出計画は、案外巧くいかへんかった。
 やから作戦変更してみたけど、やっぱり巧くいかへんかった。
なんだかんだで、人間にスキ作らそうゆう話になって、とりあえず今はおとなしく飼われてる。おとなしく飼われるんは、楽やし快適やけど、張り合いがなくてあかんな。暇さえあれば冬眠の準備やで。……まだ真夏やっちゅうねん。
「せいが出るな」
 ひまわりの種の殻を向いては実の部分だけをケージの隅に隠すのに、ジンジンはそんな感想をもらした。
「わざわざそんなことしても、毎日ニンゲンが片付けるのに」
「本能じゃ。しゃあないやろ。それに、ニンゲンが、ゆうより、お前が勝手に食うやんか」
 そして今は、大きなケージにジンジンと二匹突っ込まれとる。
……引越しん時? そんなん、脱出失敗に終わったから今こうやねん。
 広なるだけならええでけど、なんでよりによってこいつが一緒やねん。
「だって、お前が剥くのは美味そうに見える」
 ほら、またわけわからへんこと言うし。
「種はどれも種やんか。誰が殻剥こうが同じや。ほれ!」
 たった今剥き終えたひまわりの種を両手に持って見せる。ひまわりの種や。それだけで美味そうに見えるけど、それだけや。他に何の感慨も無い。
「な?」
 聞くと、ジンジンは素直に返事をした。
「うん」
 そして、種をそっと取り上げたかと思いきや、食った。
「やっぱり、美味い」
 ……いい加減呆れてものも言われへんわ。
 でも、ジンジンはやっぱり頭の回転が速い。
 目がグリグリでかいやつは、カンバヤシとかヒョーゴクンとかいうこと。
 耳から何や顔にくっつけとるやつは、イシイとかメグルクンとかいうこと。
 ヒョロっと長いやつは、タケヤマいうこと。
 なんややたら世話やいてくる、シマモトと同じ日に顔出すやつは、オーバいうこと。
 全部俺より先に見抜きやがった。俺のがここおるのん長いのにやで!? びっくりやわ。俺のひまわりの種にしか興味無いんちゃうんか勘違いするところやった。
 ……それにしても、暇や。
「なあ」
 呼びかければ、ジンジンはひまわりの種から顔をあげた。ジンジンの中で、俺は一応ひまわりの種よりは上にあるらしい。……いや、どうやろな。それやったら俺のひまわりの種取るん変な話やな。
「うん?」
「なんか、おもろいことないん?」
 頭の回転が早いジンジン様のことやから、なんかあるやろ思て聞いてみたら、妙な顔で考え込まれてもた。
「おもしろいこと……」
「うん」
 そして、ジンジン様はこう言い放った。「ここに来てから、おもしろくなかったことがないが……」
 いやいやいや、お前の意見聞いてないし。
「……俺は今全然おもんないねんけど」
「なぜ?」
「なんでも何も、退屈」
「そうか?」
 ジンジンは、不思議そうに言った。だから、わかりやすく強調して言うたった。
「うん。めっっっっっちゃ退屈!」
 すると、
「アハハ。そんなに?」
 笑った。
「……うん」
「俺は毎日が楽しいよ。毎日が嬉しい」
「……やろうな」
 そんだけ笑顔で言い切るんや。ほんまなんやろうな。
「毎日がおもしろい」
「やろうな」
 まあ、俺はおもんないねんけどな。そら是非、毎日をおもしろおかしく過ごすこつを教えて貰わんとな。
「だって、チマがいるのに。おもしろくないはずがない」
「やろうな。……って、はあ!?」
「チマと出会ってから、それまでの退屈だった日々がまるで嘘のように、楽しい」
「はあぁぁああ!!??」
 いや、ちょ、は?
 ……いや、う〜ん。俺は、お前来てから気疲れ増えただけやねんけど。
 どない言うたったらええんやろ。考えてるうちに、ジンジンに先越された。

「チマもそう思ってくれたら良いのにな。そしたらきっと、毎日がもっと楽しくなる。ね?」

 


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