なリス 17

 

 そいつは突然やってきた。
 珍しく涼しい風がふわりと吹いたかと思ったら、ケージん中におった。姿は見えへんかったし、声も聞こえへんかったけど、確かにそいつはおった。
「何か、飲む?」
 聞くと、空気がふわりと揺れた。
「水と、牛乳しかないねんけど……。どっちがええ?」
 器の前に案内すれば、牛乳がひとりでに波打った。
「お! ええよ!! 牛乳、美味いもんなあ。俺も好きや!」
 むふふ。
 なんや嬉しくなって、特に何するでもなくまったりした。だって、相手の姿見えへんし声も聞こえへんから、しゃあないよな。でも、それでも何や楽しかってん。
 それやのに!
 あんの、くそイシイが、珍しくケージ掃除してくれたりするから、ビビッてもたみたいで、強風と一緒におらんくなってん!
 イシイ、使えへんやろー? ほんまないで!
 でもな、また来るような気がしとったから、待っとってん。牛乳飲まんと。
 したらジンジンが出てきてなー。いや、お前に用は無いねんけどって感じやったけど、待ってるだけって退屈やったから、話してみてん。
「そんでなー、おらんくなってん」
「そうか」
「でも、きっとまた来るから、待ってるねん」
「ほお。ずるいな」
「は?」
「俺もそいつに会ってみたい」
「お! せやろー!! ほんならちょお、一緒に待ってみようか」
「ああ」
 で、まあ。どんくらい待ったんやろ。
 出てきてん、そいつ。
 まあ、出てきてくれたんは嬉しかってんけどな、どっから出てきたと思う? 俺ん小屋からやで! 内心、そこかい! って思いっきり突っ込んだわ。
 まあ、言わへんかったけどな。
 とりあえず、そいつにジンジン紹介して、ジンジンにそいつ紹介して、みんなで牛乳飲んどったら、またイシイやで!
 イシイが現れて、そいつビビッてまたどっか行ってもた。
 しゃあないから、またジンジンと待っとってんけどな、次はなかなか現れんくてなぁ。正直待ちくたびれた。
 待ちくたびれて、どないしよう思たとき、鼻ん頭にぴたんって。水滴落ちてきてん。
 でも上見てもとくに何もないし、気のせいかと思ったら、気のせいじゃなかってん。
 ぴたん、ぴたん、て。水滴少しずつ悪化してくねん。
 え、ちょ、え、ここ、屋内。晴れとるのに、雨漏りせえへん。てか今まで雨降っても雨漏りしてへんかったし。
 え、え、何なん? きも!
 って思ってんけど、気付いた。
「泣いとん?」
 ジンジンもはっとして、「泣いてるのか?」って聞いたけど、何の反応もなかった。
 でも、俺にはわかる。あいつ、泣いてるんや。
「平気やで! 何も怖ないで!」
「そうだ! 大丈夫だ!」
「だって、ホラ! 俺ら平気やん! やから、平気やで!」
「アレはただ図体がでかいだけで、特に何もしてこない!」
「せやで! 俺らもおるし、何も怖ないで!」
「そうだ! 何も恐れることはない!」
「俺ら友達やん! 一緒におったら大丈夫やって!!」
 いつしか俺とジンジンの言葉はハーモニーを奏でて、そこら中に響いとった。


 っていう、夢を見た。
 ……変なの。
 こんなん、ジンジンには絶対話されへんわ。馬鹿にされる。
「チマ」
「ぅお!」
「……何もそんなに驚く事ないじゃないか」
「驚いてないわ。何やねん」
「変な夢をみたんだ」
「……ふぅん」
「チマが、見えない友達を紹介してくれるんだ」
「……へぇ」

 でもまぁ、今日は、風が気持ちええな。


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