なリス 23
ぷちん。と、堪忍袋の緒が切れたんが聞こえた。
「はあ?? なんやねんそれ!」
怒鳴ると、ジンジンは途端にきゅっと体を縮こめた。
「寂しいって意味わかれへん! パーソナルスペースこんだけ侵入しとるやつのセリフとちゃうし! そもそも、離れても反復横とび片道分やん!? 寂しいから痛いんやったら、今この距離でまだちょっと痛いのは何やねん! それで好きて、意味わかれへん! なんなん? 俺んことずっと嫌いやったん!?」
……なんや、自分で何をキレてんのかわかれへんけど、なんか、こんなイライラするん、生まれて初めてやわ。
「そうじゃない。ずっと好きだ」
おろおろと、だけどはっきりと、ジンジンは言った。
クルルックルルッ
ジンジンがまた鳴いた。
……しまった。ジンジン苦しめてもた……。イライラ一気に萎えたわ。
「ジンジン?」
「クルルックルルッ」
「苦しい? 痛い?」
「すまん。……クルルッ」
「いやいや、今悪いの明らか俺やん。ごめんな。言い過ぎた」
「チマは優しいな。……クルルッ」
「……どしたらそれ止まるん? どこが痛いん?」
「クルルックルルッ」
あかん、止まれへん。
……。
とりあえず、目の前にある額を、ペロリ。
すると、ジンジンが驚いたように顔を上げた。
「チマ? ……クルルッ」
もう一度、ペロリ。額が遠ざかったから、次はほっぺた。
「チマ??」
「ジンジンがそんな顔なんは嫌や。苦しいの、俺のせいやろ? どしたら止まる?」
「……クルルッ」
ペロリ。
「……クルルッ」
ペロリ。
「わかった」
「ん?」
「これは、苦しいんじゃない。切ないんだ」
「せつな……?? 何それ?」
「クルルッ」
ペロリ。
「恋しいということ」
「こい??」
「クルルッ」
ペロリ。
「切ないから、心がチリチリ痛む」
「……」
「恋しいから、好きだから、傍にいても、心が痛む」
「心が? どしたら、そのチリチリなくなる?」
「……わからない。クルルッ」
痛いんは心。次は、もぐりこんで心臓の辺りを舐める。少しでも、痛みが和らげばいい。
「……チマ? クルッ」
「……」
「ありがとう。チマ」
「もう平気?」
「……クルッ」
「……」
「すまない。心配させてるな」
「心配?」
……まあ、心配なんかな。俺んせいでジンジンが痛いのんが嫌なだけやねんけど。
……いや、それもしっくりこおへんな。何やろ。
「うん。……どうしたら、鳴き声とチリチリがなくなるのかはわからないけれど。チマが、これだけ心配してくれてるのにまだ切ないだなんて、贅沢な話だ」
ジンジンは寂しそうな笑顔になった。
何その顔。
……何やろこの気持ち。
……せや。
寂しさに似とる。
悲しさに似とる。
痛みに、似とる。
わかった。
「なんとなく、わかった」
「うん?」
「よおわかれへんけど、」
「どっちだ」
「っ、うっさい」
「……それで?」
あれ?
「チマ?」
「とりあえず、ジンジン元戻ったみたいやな!」
「ん? ……ああ、言われて見れば、鳴き声が止んだ」
やっぱりな! 良かった良かった!!
「まだ痛い?」
聞けば、ジンジンはいつもよりちょっとだけ元気の無い笑顔になった。
「ちょっとだけ」
「ったく。勘弁してや」
「ああ。すまない」
