ロボと心と愛のカタチ 機救編 後編3
店を出て、当たり前のように駅までの道のりを二人並んで歩く。真田が相手だと嶋本にはそれさえ新鮮で、終始浮き足立っていた。近道を教え先へ進む。街灯の少ない暗い道は、ほとんど人通りがない。
「ロボットと一緒に働いてみたいものだな」
真田がそう言った。
「え〜、それだけは勘弁してください」
嶋本は即答した。「皆区別付きません。パニックですわ」
「……嶋本は俺を一目見ただけでロボットじゃないとわかったじゃないか」
「そりゃあ、俺長いことロボとおりましたもん」
「羽田基地の人達はなかなか気付かなかったぞ」
「え、行ったことあるんですか」
「こっちにあいさつに来る前に」
「ええ〜、そんなん、聞いてない!」
「根回ししておいたからな」
「嫌やわ〜、ロボと違て抜け目ない!」
言うと、真田の歩みが止まった。ロボットと比較される事を少なくとも嫌ってはいないと判断した瞬間のことで、嶋本は少し焦った。真田に向き直り、声をかける。
「真田さん?」
「嶋本」
「はい」
「好きだ」
「……あー、はい。ありがとうございます。それはもうわかったんで、」
言わんでええですよ。その言葉は唇を塞がれて言えなかった。
キスをされているとわかって、頭の中が真っ白になる。思考が停止する。何もできずにいると、僅かに唇が離れた。
「好きだ」
言うなり真田は再び唇を塞いだ。同時に、嶋本の思考が再開する。
あ、わかってへんかったんか。やからキスされてんのか。
うわぁ、どないしよー。
嫌じゃない。嬉しい。
大好きなロボが人間になったような人からキスされて、嫌なはずがないわ。
でもなー。ロボちゃうねんな、この人。
何の動きも見せない嶋本の唇を、真田は角度を変え、食んだ。
あ、
気持ち良い。
嬉しい。
気持ち良い。
気持ち良い
微かに応えた嶋本を見逃さず、真田は舌を進入させた。
歯列をなぞる。
その感覚に、嶋本は我に帰った。とっさに真田の胸元を押し、離れる。
真田を見ると、酷く傷付いたような顔をしている。
違う。そんな顔をさせたいわけじゃない。
どうしよう。
どう言おう。
すみません、と言えば。きっと拒絶ととられる。
拒絶なんて、するはずがないのに。
拒絶なんて。できるはずがないのに。
嶋本が何も言えずにいると、真田が口を開いた。
「すまない、」
続く言葉を、嶋本は容易に予想できた。「忘れてくれ」だ。そんな言葉、聞きたくない。嶋本は慌てた。
「謝らないでください」
その言葉に、真田は口を閉じた。不安そうな、気まずそうな、情けない顔になる。
「聞いてください」
真田はひとつ頷いた。
嶋本は何から話せば良いか、何を話せば良いか、まとめられないままに話し始めた。
「俺、ロボが好きなんです。羽田にいるあのロボットに、……恋愛感情を、抱いているんです」
その言葉に、真田は驚いた風でもなく、「うん」と頷いた。
「何度、人間だったら良いのにと、考えたことか」
「うん」
「そこへ、ロボと顔も声も同じ人が現れた。好きにならないはずがない」
「うん」
「ロボットをそのまま人間にしたような人が現れて、好きだと言われたら、嬉しくないはずがない」
「うん」
「でも、真田さんは、ロボじゃない。俺は、真田さんの人となりを見て、真田さんを好きになったわけじゃない」
「うん」
「俺は、真田さんを、好きなわけじゃない。俺が好きなんは、ロボットの真田甚です」
でも、好きだと言ってもらえて嬉しい。キスも嬉しかった。だから、これからも好きでいて欲しい。
だなんて。
そんな我侭、言えるはずがない。
「うん」
頷いて、真田は口を開いた。
「そんな嶋本だから、好きになった。俺は、報告を受けてるだけの時から、嶋本のことが好きだった。ロボットを好きな嶋本を、俺は好きになった」
そう言う真田の優しい笑顔に、嶋本は溢れる涙を止められなかった。
