一緒に 19

 

 女性の立ち直りが早い理由がわかった。
 泣くからだ。
 泣いて、泣いて、泣くだけ泣いたら、涙が枯れる頃には、原因であるストレス物質も枯れているに違いない。
 体調をくずして、弱っているついでに心の内をもらしてぼろぼろ泣いたら、目覚めた時には妙にすっきりしていた。……久々に大泣きしたせいか頭痛があったが。
 諦めがついたのだろう。
 その証拠に、真田さんが家に来て、近くにいても、辛くなかった。
 勤務中も、避けずに接する事ができている。多少接触があっても、なんとも思わなくなった。
「何なんだ、お前らは。離れたりくっついたり」
 黒岩隊長に言われた。
 真田さんは何も答えない。
「何なんでしょうねぇ」
 俺が答えると、黒岩隊長は呆れたようにため息をついた。
「お前ら程扱いづらいバディは見た事がない」
「はぁ」
「正直に答えろ。お前ら、来年度も同じ隊で働きたいか」
 来年度……。そうか、もう今年度も終わるのか。
「働きたいです」 真田さんが即答した。
「可能なら、また、バディとして」
「それは、まだきちんとバディになれてへんと考えるからですか?」
 この質問に、真田さんはわずかに目を見開いて、黒岩隊長は豪快に笑った。
「なんでそんなに他人行儀なんだYO!」
「え、他人行儀でした?」
 黒岩隊長は笑って答えないので、真田さんに聞く。
「こんなもんですよね?」
 だけど、真田さんも答えなかった。ただ、困ったような笑顔を向けられた。
 黒岩隊長がひとしきり笑い終えたところで、真田さんが口を開いた。
「バディになれてないとは思わない。しかし、まだまだ可能性があると考える」
「それは……。きちんと、バディになれてへんということではないんですか」
『嶋本と、きちんとバディになりたい』
 トルコから返ってきた真田さんは、ひどく疲れた様子で、だけどしっかりと、そう言った。その翌日の訓練でも、真田さんはそう言った。
「……わからない。ただ、俺は。今でも、嶋本ときちんとバディになりたいと思う」
 やっぱり真田さんはそう言った。
 ならば、俺は。
「嫌です」
 黒岩隊長に言った。
「俺は、来年も真田さんと同じ隊は嫌です」
 バディなんて、もっての他だ。
 真田さんへの想いは、多分諦めがついた。でも、それだけだ。好きなものは好きで、嫌いになんてなれない。
 それなのに、真田さんは俺に期待してくれている。俺を必要としてくれている。
 そんなの、またいつ想いが膨れ上がるかわからない。
 切ないのは、もう、嫌だ。
「嫌ときたか」
 言って、黒岩隊長はまたガハハと笑った。
 真田さんの様子はわからない。真田さんの方を見られなかった。


 季節外れの台風が発生した。
 もうすぐ暴風域に入るという頃、荒れる海を野次馬して若者二人が波にさらわれた。一人はなんとか陸に上がれたが、もう一人は少し流され一ヶ所だけぽっかりと残った岩場に取り残された。
 現場は想像異常に荒れていた。
 リペリング降下できそうな場所はなく、少し離れた場所へダイブすることになった。
 暴風の中、なんとかホバリングが安定した所で扉が開けられる。
「海面OK!」
 叫んだ瞬間、海面に違和感を覚えたのと同時に、ぐらりと視界が揺らいだ。
 反射で扉に手をやったが、虚しく宙をかいた。
 落ちる。
 思った時にはヘリの外へ投げ出されていた。
 あ、うまいこと着水せな。
 叩きつけられるのだけ防がんと。
「嶋本!」
 かすかに真田さんの声が聞こえた。
 まずい。
 俺になんかあったら、真田さんきっとまた後悔する。
 また自分の殻にこもる。
 体勢を、
 整えろ……!

 バシャーン!!

 結局俺は背中から落ちた。
 一瞬見えたヘリでは、真田さんが不自然に中へと消えた。
 急いで浮上する。
 方向感覚を失い、海面で格好悪くキョロキョロする。
 ようやく視界に捉えた要救助者は、酷く動揺しているようだった。
 無理もない。
 ヘリに恐怖心を抱いていなければ良い。それだけを考えて向かえば、たどり着くなりたっぷり嫌みを言われた。
「来るの遅えよ! どんだけ待たせんだよ!! しかも来たと思ったらお前みたいなドジなチビってどういうことだよ! どうせまたミスすんじゃねえの!? もっとましな奴いねぇのかよ!!」
「はい、もう一人来ますので安心してください」
 どうやら俺のことが頼りにならないだけらしい。面倒なことにならなくて良かった。
 途中で拾っておいたガイドロープを頼りに、真田さんが降りてくる。要救助者に速やかにハーネスを付け、要救助者と共に真田さんに先に上がってもらう。
 二人を見届けると、急に全身が痛み出した。落ちた場所が思いのほか浅く、全身を岩に打ちつけていた。
 背中が。腕が。肩が。痛い。
 力が入らない。立っているのもしんどい。
 だけど、ここで倒れるわけにはいかない。
 俺は、真田さんのもとへ帰らなければならない。


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