一緒に 3

 

 俺は、最速で特救隊へは行けなかった。でも、タイミングとしては真田と同じ。真田との差は確実に縮まっている。新人隊の中でも、誰にも負けていないと自負している。正式に配属された時、どれだけ近づけているだろうか。一緒に頑張るには、目ぇ開かせられるだけの成長を遂げなければならない。
 特救隊に来て初めて真田と顔を合わせたのは、三度目の実動隊との合同訓練の時だった。何度か目が合ったが、そこからは何も読み取れなかった。
 訓練終了後に話しかけられたと思ったら、
「お前、周りが見えていないな。いや、そもそも見ようとしていないのか」
 そんなことを言われて。イラついた。
「ほんならお手本見せてもらいましょか。俺にはあんたの方が一人で突っ走ってるように見えましたがねぇ」
 言い終えるなり背後から拳が飛んできて、俺はその場にうずくまった。
「お前仮にも上官に何て口の利き方してんだ」
 拳の正体は黒岩さんだった。
「真田、お前も。笑ってないで注意しろ」
 その黒岩さんの言葉に、俺はすごい勢いで顔を上げた。真田が笑うなんて珍しい。真田は手で口元を覆って、笑いを堪えているようだ。
「まさか俺の口調に笑てんのとちゃいますよねぇ」
 言うと、真田は一瞬目を見開いた。そして
「いや、似合ってると思って」
 震える声でそう言った。
「ほんなら笑い堪えてるように見えるのは俺の気のせいなんですかねぇ?」
「うん。気のせいだ」
 真田は尚も笑いを堪えつつ言って、その場を後にした。
「なんなん? 気ぃ悪いわ」
 ぼそりと呟くと、黒岩の手が頭に置かれた。ついその手を振り払う。
「お前、すごいなぁ」
 黒岩さんは感心した声を出した。
「真田があんなに感情表に出すの、初めて見た」
「まあ、珍しいですね。あんなに笑うなんて」
「それもだが、あんなに表情変わる奴だったんだなぁ」
「変わりますよぉ。人間ですもん」
「そうかぁ?」
「まあ、基本的には飄々としてますけど。怒るし困るし笑うし嬉しそうにするし、ご飯は美味しそうに食べるし。それなりに変わるでしょ?」
「俺は……、気難しそうな顔しか見た事ねぇな。絵に描いたような堅物クソ真面目かと思ってた」
 そして言った本人が気難しそうな顔になった。黒岩さんは少し何かを考えると、ゆっくり口を開いた。
「お前には、訓練中の真田が、一人で突っ走ってるように見えたんだな?」
 その問いに、俺はただ頷いた。他の人も気付いていた安心感と、自分一人が頑張らなくて良い脱力感で、言葉が出なかった。
「ずっと、あいつはどこか、違う所にいるような印象はあったんだ。違う所にいられたんじゃ、何かあった時に助けてやれねぇ。でも、突っ走ってるなら、追いつけば良いだけの話だな。嶋本、お前なら、あいつが何を目指して突っ走っているかわかるんじゃないか」
「真田……さんは、ただ前に進みたくて、前に進んでいるつもりでいます」
「つもり?」
「伊藤有、知ってますか?」
「ああ。元気だけが取り得のような奴だった」
「真田さん、伊藤さんと共に前に進みたいんです。真田さんが共に前を目指したいのは、他の誰でもない、伊藤さんなんです。だから、他の人には目もくれない。一人で突っ走ってることも無自覚」
「他の人には目もくれない?」
「はい」
「オマエノコトハシッカリミテイタジャナイカ」
 お前の事はしっかり見ていたじゃないか。
 脳が意味を理解するまでに、大分時間がかかった。そんなこと、思いつきもしなかった。
「周りが見えていない。真田はお前に対してそう思った。そして働きかけた。更には、気難しい表情を崩して、お前と楽しそうに話をした」
「……」
「真田の世界には、伊藤だけじゃない。お前もいる。お前なら、入っていけるじゃないか。お前なら、一人で突っ走ってる事を自覚させられるんじゃないのか」

 そのつもりでここに来た。
 だけどまさか、俺にしか目ぇ開けさせられないなんて、思いもしなかった。
 そう言えば、五十嵐さんにも俺なら支えになれると言われた。五十嵐さんは、気付いていたのだろうか。

 本当に、俺にできるだろうか。

 

 いや、俺にしかできないんだ。

 

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