一緒に 4
四ヶ月の訓練を終えて配属されたのは、黒岩一隊。副隊長は真田。
真田は腑抜ただけじゃなかなか追いつけない。でも、それくらいがいい。だって、こんな状態で追いつきたくない。こんな状態で追いついたって何も嬉しくない。噂によれば、海保大出は3年目で副隊長になれるらしい。それなら俺も再来年度は副隊長だ。だから、役職は気にしない事にする。
しかしこの隊、当直の度に出動がある。毎度現場へ行かせてもらえるわけでもないが、やりがいがある。実力は嫌でもつく。それは一隊隊員全員に言えることで、真田もめきめきと実力を付けていっている。知識と技術だけなら、真田は抜きん出ている。きっと、隊長クラスだ。新人でもそれはわかる。
バディは、そんな真田とばかり組まされる。目標が目の前にいてくれるというのは嫌でもやる気が出て、嫌でも相手を見ることができて、嫌でも良い点を盗むことができる。嫌でも、自分の望む方へと成長できる。願ったり叶ったりだが、それだけだ。
『それだけ』と言うのは、ストレスが、溜まる。
「何度言うたら分かってもらえるんですか」
伝わらない。理解してもらえない。
「俺は、もっと説明して欲しい言うてるだけですよ?」
これっぽっちのことを、聞き入れてもらえない。
「必要ない」真田はいつもそう言う。
本来、理解する姿勢と言うものは、手放しで受け入れて貰えるものではないのか。手取り足取り丁寧な説明はなくとも、口頭での説明はなくとも、『自分で理解する努力はしたのか』くらい、聞いてくれても良いのではないか。
「必要です」
「必要ない」
帰りの機内でこの会話をするのも、もう何度目だろう。初めの方こそ、黒岩隊長も他の隊員も、果ては機長まで、見かねて口を挟んできたが、今となっては皆見向きもしない。
「俺は、真田さんの意図がわかりません。これは、バディとして致命的です」
「俺はそうは思わない。嶋本は誰よりも俺の指示を正しく遂行する。何ら問題は無い。現状以上の説明は必要ない」
「俺は指示の話をしとるんやありません。意図の話をしとるんです」
「指示を正しく遂行できている。それは、指示を、意図を、理解しないと出来ないことだ。嶋本はやれている。これ以上の説明は必要ない」
「それは、俺が指示されたことしかしてへんから、勘違いしとるだけです。意図がわかれへんから、俺は……。俺は、現場で、真田さんの指示なしには動かれへん」
指示なしには動けない。意図が分からないから、自分から動くことができない。
「真田さんが何をしたいのかわかれへんから、それがどれくらいの時間で終わるかさえわかれへんから……、俺は、周囲気にしたり、残圧気にしたりして、オロオロして見てるしかできんのです!」
それが、どんなに不甲斐ないことか。どんなに情けなくて、どんなに悔しいことか。
知る由もないのだ、こいつは。だから、「それでいい」なんて、平気で言える。
「オロオロしてるだけの、何が良いんですか!」
「お前は、恐怖していれば良い」
「はあ!?」
感情に任せて胸倉を掴む。そこへ、ごつい手が伸びてきた。黒岩隊長だ。
「嶋本落ち着け。真田、お前、今のは俺も意味がよくわからん」
俺は掴まれた腕を払いのけ、真田に背中を向けた。
「黒岩隊長、よくわからんってことは、多少はわかるってことですか」
聞くも、黒岩隊長は何も答えてはくれず、俺の肩をポンポンと叩くことにより話を終わらされた。
俺は、基地に着いても苛立ちを抑えられないままでいた。機材の片付けは、一つ一つ、反ってストレスが溜まる程に丁寧に行う。そうしなければ、感情のままに、力任せに扱ってしまいそうだ。
それにしても。
恐怖していればいいとは、どういうことだ。いくら考えても、嫌味にしかとらえられない。
『嶋本は誰よりも俺の指示を正しく遂行する。これ以上の説明は必要ない。お前は、恐怖していれば良い』
そこに隠された言葉は、俺にはこう聞こえる。
『指示以上のことはしなくて良い。お前にそれ以上のことはできない。余計なことはするな』
苛々する──
俺は盛大に息をついて、次の機材へと手を伸ばす。そこへ黒岩隊長が別の機材を運んできた。
「こいつも頼む」
そして俺の頭を一つ小突くと、一足先にロッカーへと消えた。
黒岩隊長は、このちぐはぐなバディを見守っている。そこに何らかの期待を寄せて。
そんなことがわかってしまったら、投げ出すこともできない。
黒岩隊長の足音が聞こえなくなるのを確認すると、俺はもう一度、大きく息をついた。
